第3回 黒談春@紀伊国屋ホール

「白談春」は“はじめての落語、はじめての談春”という初心者にお勧めの会という。「黒談春」は“もっと刺激を、もっと談春”というマニアックな方にお勧めの会だという。今回は後者の方。談春秘密倶楽部(笑)だった。

「力士の春〜噺家の春」

謎の前座“春作”というから誰かと思ったら、何のことはない談春だった。春風亭昇太の新作「力士の春」を昇太風に眼鏡をかけて、昇太が時折見せる変なオーバーアクションやおかしなしゃべり方を真似ながら、大いに笑わせてくれた。

続けてこれを落語界の話にすり替えたパロディ「噺家の春」を眼鏡を外して(笑)演った。落語界の派閥ネタをギャグにしたり、堀井憲一郎に「落語を見過ぎだ!」と突っ込んだり(本当に来ていた堀井憲一郎)。落語好きには爆笑ポイントがいっぱいあった。大体主人公の子どもに松岡・美濃部・克由という名前をつけるあたり、知らなくちゃ笑えないだろうが(笑)(松岡克由=立川談志、美濃部=志ん生さんちご一家の名字)その子どもは落語家を目指すのだが、入門した先は古今亭一門でなければ立川流でもない。どこかと思えば円楽党。その理由はデリケートなので、この晩の紀伊国屋ホールでしか明かされないことでしょう。

「質屋庫」

上方でよく演じられる噺のようで、私も初めて聞いたけど談春も今回初めての根多おろしだそう。面白い噺だった(そりゃそうか)。談春で初めて聞く噺なので比較の対象もないから、よくわからないんだけど、謎の前座のすぐあとだったこともあり、ウマい!と思った。特にある女が金銭を工面する健気な様子を、質屋の番頭さんが想像で語るところなんて、テンポも良くて、気持ちも引き込まれ、シ〜ンと思わず会場全体が聞き入る感じだった。ただ、全体的にはずいぶんあっさり流れた気がした。が、こういう噺なのか、もっと膨らましようがあるのか、よくわからない。

「豊志賀」

怪談話ではないが、この噺は嫉妬に狂い、醜くなって行く豊志賀の顔を思い浮かべるたびに気味が悪くなる。でも、豊志賀の気持ちはすご〜くよくわかる。私だって隠しているだけで、人間の皮を剥けば、こんなドロドロしたものが年を重ねる毎にいっぱい貯まって来ているのがわかる。それだけに余計に気味が悪いのかな。

談春の噺では、新吉と豊志賀が男女の関係になるまでは、かなりあっさりと語られ、豊志賀がおかしくなってからの後半がメインと言った感じ。豊志賀の嫉妬を語る前に、エピソードが入った。「ボクは女の嫉妬よりも、男の嫉妬の方がずっと恐いことを知っています」と、女子高生のファンを取った取られたの、SらくさんとD志師匠(実名は良くないと言って、こう呼んでいたけどマルわかりw)のお話。昔の話ではあるみたいだけどね、スゴく面白かった。シリアスな「豊志賀」の中に、笑える話を入れちゃうなんて、勇気があるなと思ったけど、最後はすっかり元の空気に戻って終わった。「豊志賀」ってホント、コワイし悲しいなあ。

アトリエ小びん

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