「太陽」

「あ、そう。」

久しぶりに思い出した、昭和天皇の口ぐせ。

舞台は1945年、終戦を迎えた8月。現人神とされた昭和天皇の、ひとりの人間としての苦悩や孤独を描いたもの。

簡単な下調べのもと、シリアスな気持ちで臨んで見はじめたが、イッセー尾形の演じる昭和天皇ヒロヒトの魅力あるキャラクターに、時々笑いが突いて出るような意外なものだった。天皇の微妙な表情や言葉の間、動きには心の機微が繊細に表現されているため、終始天皇から目が離せないし、想像力をかきたてられる。そのため、話が進むにつれ、天皇に対して強い興味を持って見ている自分がいた。

ソクーロフ監督が苦労した点のひとつとして、当時の史実についての下調べは徹底的にしたものの、実際に皇居内で彼らがどのような会話を、どのような抑揚で話していたかはわからないため、セリフについては最後まで苦労したとのこと。しかも、ほとんど日本語のセリフなので、ロシア人の監督としてはその判断基準をどこにおいたのか考えると不思議。その部分を補ったのはやはりイッセー尾形の昭和天皇の役づくりだったんじゃないかなと思う。スバラシイ演技だった。本人曰く、天皇をチャーミングな人物として演じたかったとのこと。全くその通り、本人以上に本人らしく、静かでやさしく、勇気とユーモアのある魅力的な人物になっている。

話の最後に桃井かおりが皇后役で登場する。終戦し、子どもたちを連れて、皇后が皇居に戻って来るシーンからラストまでの重みはグッとくるものがある。桃井かおりの最後の強い表情は特に忘れられない。

ジャック・タチのようなユーモアをちりばめつつも、繊細でシリアスなストーリー。人間の歴史の重みを考えさせ、心にひとつあたたかい愛を置いて行くような映画。なかなか他にない映画だな、と思う。DVDが出たらほしいな。

太陽 The Sun(原題:Solnze)

監督: アレクサンドル・ソクーロフ

キャスト:イッセー尾形、佐野史郎、桃井かおりほか

第13回サンクトペテルブルク映画祭グランプリ受賞

アトリエ小びん

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